前回の記事で「身体のゆがみ」は、感覚器の刺激を元に起こる反射や無意識のバランスを取るための代償の結果と考えることが根本的な考え方ですよ、というお話をしました。
今回は感覚器のヒエラルキーについて書きます。
姿勢や動作、痛みや不快感などの元になる感覚として、
・視覚
・前庭覚(三半規管と耳石器)
・体性感覚(固有受容感覚と触覚)
がありますよと何度もお話していますが、脳は各器官からの情報を同じレベルで信じているわけではありません。
たとえば、「まっすぐ立つ」という状態は
・目からの情報で床からの高さや遠くに見えるものから自分は「まっすぐ立って」いますよと脳に情報を送ります。
・両耳の奥にある前庭規管からの情報で、頭の位置や目の位置、背骨の位置が「まっすぐ立って」いますよと脳に情報を送ります。
・身体の感覚で、左右の足裏が同じ重さで床についていて、膝や股関節が伸び、背骨の両サイドが同じ長さで筋肉の収縮をしている時「まっすぐ立って」いますよと脳に情報を送ります。
これらの情報はお互いに「まっすぐ立っている」という情報を送っています。
違った感覚器からそれぞれが「まっすぐ立っている」という情報を送る。
違った、感覚器が、それぞれ、「まっすぐ立っている」、と言っている。
これって情報がオーバーラッピングしていますよね。
ではこれが
・頭が傾いているのに、目と前庭規管が「まっすぐだよ」と脳に情報を送っている(左右の感覚器の働きが違っている時によく起こります)
・体性感覚は「まがってる!立て直して!」と情報を送っている
目と耳は「まっすぐだよ」
身体は「まがっているよ」
情報が矛盾しています。
この場合、どの情報を脳は信じるのかというと
①視覚
②前庭覚
③体性感覚
の順位でヒエラルキーがあると言われています。
特に視覚からの情報は70~90%を占めると言われています。
前庭覚は神経のつながりを見ていくと基本的に視覚とセットで働くため、同じくヒエラルキーの上に属します。
だから体性感覚が犠牲になってしまう(身体がゆがむ)ことになってしまうのです。
前回の記事でも書きましたが、身体の歪みに対して
もみほぐす(体性感覚)
鍼灸(体性感覚)
ストレッチ(体性感覚)
筋膜リリース(体性感覚)
ということはよく行われますが、世の中のゆがみに対するアプローチの多くが体性感覚への刺激です。
もちろん「常に意識的に」身体の位置を変化させることで視覚や前庭覚の働きが変わり、身体の変化につながることも多くあります。
また、筋肉や関節の使っていない部分はその神経の働きが落ちるため、全体として脳が感じる脅威のレベルが上がりますが、エクササイズやマッサージで普段使っていなかった部分に体性感覚の刺激が入ることで脳の脅威のレベルが下がり、身体が楽になる、ということは大いにあります。
しかしそれらはヒエラルキーの下の方に位置しているために、もし視機能や前庭機能に問題があった場合、無意識の状態だとすぐに元に戻ってしまうということが起こるのかもしれません。
マッサージが無意味だという意味ではなく、その視点と同時に、土台作りとして感覚器のヒエラルキーに沿って働きが悪い場所はないかな?と探す視点もあると、より早く身体の変化につながるのかなと思います。
これらの施術を積極的に取り入れつつ、それで終わりにせずに、さらに感覚器への刺激となるような動作をすることで、無意識の調子の良さが作りやすくなるかもしれません。
ヨガやピラティスやラジオ体操やダンス、ウォーキングやジョギングなどは頭部の位置が変わるので、体性感覚だけでなく前庭覚や視覚への刺激にもなります。
次回は前庭器官について深めて書きたいと思います。